アカデミー作品賞受賞の衝撃映画

2014.03.04

オトコに見せたいこの映画『それでも夜は明ける』 /第157週(火曜担当/松村 知恵美)


第86回アカデミー賞で、作品賞、助演女優賞(ルピタ・ニョンゴ)、脚色賞を受賞したことでも話題の映画『それでも夜は明ける』。
この映画を監督したスティーヴ・マックイーンは、1969年にイギリスで生まれたグレナダ系黒人の男性です。
黒人の監督が作品賞を受賞したのは、アカデミー史上初めて。

かつて、アメリカで実際に行われていた自由黒人誘拐や黒人奴隷売買、黒人奴隷虐待の悲惨な様子を描いた本作が、黒人監督と黒人女優にオスカーを与えたのです。
そう言った意味でも、米国アカデミー賞の歴史に新たな幕を開いた、意義ある一作です。


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この映画の舞台は、1840年代のアメリカです。
1862年のリンカーンの奴隷解放宣言以前にも、アメリカ北部には"freedman"という自由黒人がいました。
彼らは自由黒人としての身分を保障され、奴隷扱いされることなく、自由に生きていたそうです。

この映画の主人公、ソロモン・ノーサップは、そんな自由黒人として、ニューヨークで音楽家として家族とともに生活していました。
そんな彼が、ある日、営利目的に誘拐され、アメリカ南部に奴隷として売り飛ばされてしまいます。

ソロモンを待っていたのは、これまで知らなかった過酷な日々。
自分が人間として扱われず、主人の所有物として、家畜のように扱われる存在になるのです。
ソロモンも、最初はそんな状況に逆らっていたものの、やがて状況を受入れ、いつか来るかもしれない脱出のチャンスのために、心を殺して生きるようになります。


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主人やその他の白人から殺されたり虐待を受けたりしても、文句一つ言えない、奴隷と言う立場。
彼らは、何をされても耐えるしかありません。
過酷な労働に貧しい食事は当たり前。ムチで打たれても、縄で吊るされても、奴隷仲間が性的虐待を受けても、何の反論も許されず、ただ唯々諾々と従うしかないのです。

そんな中で、ソロモンは12年間も「家族の元に生きて帰る」という希望を持ち続け、生き延びたのです。
ソロモンの暗い夜は、12年の歳月を経て、やっと明けるのですが...。


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この映画は、"奴隷制度"という決めごとのもとで、どれだけ人間が残酷になれるのか、そしてどれだけ冷酷になれるのかを描き出しています。

キウェテル・イジョフォー演じるソロモン・ノーサップは、状況を受入れ、「自分は自由黒人で、本来は奴隷ではない」という強い心を持ち、奴隷として12年間生き抜きます。
しかし、ルピタ・ニョンゴ演じる女性奴隷のパッツィーは、奴隷として生まれ、奴隷として生きてきた女性。
主人のエップスに性的虐待を受けたり、暴力を振るわれたりしても、それを受け入れることしかできません。

劇中でのパッツィーに対するソロモンが見せる態度は、奴隷制度や差別に対する根深い問題を如実に表していると思います。
現代の英雄的なヒーロー像に慣れ、どんな人種でも平等な基本的人権を持つのが当たり前だという価値観の中で生きてきた私は、ソロモンの態度にもちょっとショックを受けました。
生き残るためには、そうせざるを得ないのかもしれませんが...。


アカデミー賞作品賞を受賞したこの作品、マイケル・ファスベンダー、ベネディクト・カンバーバッチという当代人気俳優二人が顔を揃えて奴隷を虐待する主人を演じていたり、ブラッド・ピットが製作・出演を務めていたりと、話題にもこと欠きません。
もちろん、長編映画初出演でありながら、過酷な運命の女性奴隷を体当たりで演じオスカーを獲得したルピタ・ニョンゴ、誇りと希望を忘れない意志の男・ソロモンを演じたキウェテル・イジョフォーの演技も素晴らしいの一言です。


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人権問題、人種差別問題などに対する複雑な問題を観客に提起する、挑戦的な映画『それでも夜は明ける』、ぜひこの機会に観て欲しいと思います。


(松村知恵美)


『それでも夜は明ける』(134分/アメリカ=イギリス/2013年)
原題:12 Years a Slave
公開:2014年3月7日
配給:ギャガ
劇場:TOHOシネマズ みゆき座ほか全国にて順次公開
公式HP:http://yo-akeru.gaga.ne.jp/


<STORY>
1841年、音楽家のソロモン・ノーサップは、アメリカ・ニューヨーク州サラトガで自由黒人として暮らしていた。しかしある日、彼は白人に誘拐され、奴隷として南部に売られてしまう。大農園主のフォードに買われたソロモンは、フォードからは気に入られたものの、トラブルを起こしてエップス家に売られてしまう。新たな主人のエップスは奴隷たちを暴力で支配する男だった。エップスは若い女性奴隷のパッツィーを慰み者にしていたのだ...。

製作総指揮:テッサ・ロス
監督:スティーヴ・マックイーン
製作総指揮・脚本:ジョン・リドリー
音楽:ハンス・ジマー
出演:キウェテル・イジョフォー/マイケル・ファスベンダー/ベネディクト・カンバーバッチ/ポール・ダノ/ポール・ジアマッティ/ルピタ・ニョンゴ/サラ・ポールソン/ブラッド・ピット/アルフレ・ウッダード/クヮヴェンジャネ・ウォレス/ジェイ・ヒューグリー/ドワイト・ヘンリー/マイケル・K・ウィリアムズ/ギャレット・ディラハント/スクート・マクネイリー/ルース・ネッガ/アデペロ・オデュイエ/クリス・チョーク/クリストファー・ベリー/タラン・キラム


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