はじめての能〜演目「三輪」

2013.10.03

白翔會は、能楽師・坂井音重師の芸術活動の後援を目的として活動している団体です。

日本の大切な伝統文化である『能』を少しでも多くの方に知ってもらうため、
毎週、ひとつずつ能の演目を紹介して参ります。

◆能【三輪】

〜物語〜

大和国・三輪山の麓の小さな庵にひっそりと暮らす玄賓僧都という高僧のもとに、毎日樒と閼伽の水を持って訪れる女がおりました。今日も訪れた女は、秋も夜寒になったので、玄賓に衣を無心して帰って行こうとします。かねがね不思議に思っていた玄賓が、女の住まいを問うと、「不審に思うならば、杉の木立がある門をしるしにいらして下さい」と言って、かき消すように姿を消します。(中入)

 

玄賓の衣が三輪の社の神木に掛かっているという里人の知らせに出向くと、先程女に与えた衣が杉の枝に掛けられ、衣の褄には仏の教えを説く和歌が書かれていました。やがて杉の木陰から、美しい女に身を変えた三輪の神が現れ、衆生を救うために、しばし迷える人の心を持ってしまうので救って欲しいと願います。そして三輪の神の妻どいの神話を語り、玄賓を慰めるためにと神楽を舞い、天の岩戸隠れの神話を再現して、夜明けとともに消えて行きます。

〜舞台展開〜 

まず舞台・大小前に鬼神の住む塚の作り物が置かれます。榊の枝を付け、引廻しをかけてあります。

 

舞台・大小前に置かれた作り物は、三輪の社と神木の杉を象徴的に表したもので、〈引廻し〉という布で覆われています。笛の音につれてワキが登場し名乗ります。次第の囃子で前シテ(里女)が登場します。〈深井〉という中年女性の面に、赤色の入らない地味な唐織(色無唐織)を着て、木の葉(樒)と数珠を持っています。玄賓の庵室を訪ねた女は、木の葉を置き、罪を助けて欲しいと手を合わせます。地謡では秋の終わりの淋しい庵の様子を表現しています。女は衣を無心し抱えて帰りかけると、玄賓が呼び止めます。「杉立てる門をしるしに尋ね給え」と言って作り物の中に消えます。(中入)衣は作物正面に掛けられます。

 

間狂言(里人)が、神木に掛けられた衣のことを知らせると、玄賓は三輪の社に向かいます。

 

作り物の中より、〈増〉の面に烏帽子を付け、長絹(広袖の衣)・緋大口(袴)姿の美しい後シテは、三輪の神の仮の姿です。

 

〈クセ〉の部分では、三輪の神が人の姿となって女と契りを交わし、その素性を怪しんだ女が、男の衣に糸を綴じ付けて辿って行くと、社前の杉の根元にたどり着き、男は三輪の神であったと知るという、神婚説話を物語ります。シテは玄賓を慰めようと幣を手に神楽を舞い、天の岩戸の神説を再現して見せます。

 

 

〜鑑賞〜 

大和平野にひときわ美しい山様を見せる三輪山は、神奈備山(神の宿る山)として古来崇められて来ました。三輪の神は大物主神(大国主命)です。この神が姿を変えて通ったといわれるヤマトトトヒモモソヒメの墓は、"箸墓"と呼ばれる前方後円墳で、三輪山の麓にあります。

 

また三輪山をめぐる古代からの街道"山の辺の道"の途中には、玄賓庵も残されています。

 

神婚説話では、三輪の神は男性の姿となって人間の女性と契りを結びますが、能では三輪の神は女性の姿で登場し、玄賓に救いを求めます。美しく気高く、しかも親しみのある存在として描かれています。その姿は、昔から人々が崇め恐れ、親しんできた三輪の神のイメージと言えます。

(白翔會)

媒体資料