はじめての能〜演目「熊野」

2013.10.10

白翔會は、能楽師・坂井音重師の芸術活動の後援を目的として活動している団体です。

日本の大切な伝統文化である『能』を少しでも多くの方に知ってもらうため、
毎週、ひとつずつ能の演目を紹介して参ります。

◆能【熊野

〜物語〜yuya01.JPG

平宗盛の寵愛厚い熊野のもとに、故郷・遠江国(静岡県)より、侍女・朝顔が老母の文を携えやってきます。

 

熊野は、「命あるうち一目会いたい」と記された母の文を持って宗盛のもとに暇乞いに行きます。しかし、この春ばかりの花見の友と、花見車で清水に連れていかれます。

 

浮かぬ心を引き立てて酒宴に連なった熊野は、清水から見渡せる景色を愛でて舞います。

 

折りしも降り出した村雨が満開の桜を散らし、

 

いかにせん 都の春も惜しけれど 馴れし東の花や散るらん

 

と、熊野が母の命を思って詠んだ歌に心打たれた宗盛は、ついに暇を許すのでした。

〜舞台展開〜 

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名のり笛につれて平宗盛(ワキ)が太刀持(ワキツレ)を従えて登場し、熊野の訪れを待つ態でワキ座に着きます。

 

次第の囃子で朝顔(ツレ)が、熊野の母よりの文を懐に登場し、都の熊野の住まいに着いた態で橋掛りへ行き、幕に向かい案内を乞います。

 

アシライという静かな囃子の内に熊野(シテ)が現れ、母を思い遣る様子で佇むところに、朝顔が文を渡します。文を一見した熊野は、朝顔を連れて宗盛のもとに行き、文を見せて暇乞いをすると、読み上げるよう命じられます。(文ノ段)「花は春あらば今に限るべからず」という、熊野ですが、花見車に同乗させられます。(後見が花見車を角柱近くにすえます)

 

浮き立つような春の都大路を進む花見車、母を思う余り沈んだ心の描写が見事な場面です。花見車を降り正中に座ると、そこは清水の観音の前です。母のために祈る熊野ですが、酒宴が始まったという知らせにこころを引き立てて舞います。(中の舞)

 

村雨が降り出して花の散るのを見て舞を止め、和歌を短冊に書きつけて宗盛に見せます。(イロエ)

 

その歌の哀れに心打たれた宗盛は故郷に帰ることを許し、熊野は勇んで帰って行きます。

 

ワキはシテに弔いと、残された身内を助けることを約束し、下人(間狂言)に家に送るよう命じます。

 

 

〜鑑賞〜yuya03.JPG 

老母からの手紙をしっかりと読み上げる「文ノ段」、花見車に同車して清水へ向う「上歌」、「ロンギ」、花見の宴で舞い、村雨の散らす桜を惜しんで歌を詠む終盤と、見所の続く能です。桜を待ち、めでる日本人の心。浮き立つ様な春の気配。春の憂いが根底に流れる美しい曲です。

 

「平家物語」の中で熊野のモデルとなった女性は、平重衡が捕えられ鎌倉に護送される「海道下り」に登場します。遠江国・池田の宿に泊まった重衡に、身の上を思い遣って歌をおくります。重衡は、その女性こそ池田の宿の長者の娘で、かつての宗盛の愛妾・海道一の歌の名手と知るのです。

(白翔會)

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