はじめての能〜演目「楊貴妃」

2013.10.24

白翔會は、能楽師・坂井音重師の芸術活動の後援を目的として活動している団体です。

日本の大切な伝統文化である『能』を少しでも多くの方に知ってもらうため、
毎週、ひとつずつ能の演目を紹介して参ります。

◆能【楊貴妃】

〜物語〜

唐の玄宗皇帝は、こよなく愛する楊貴妃を失い、悲しみの余り、魂の在り処を探させます。命を受けた方士(仙界の術を身につけた者)は、天上界はもとより黄泉の国まで訪ね歩き、ついに蓬莱の島で、楊貴妃の魂と出会います。その姿は在りし日と変わることもなく、たとえようもない美しさでした。確かに出会えたしるしにと、かんざしを差し出す楊貴妃に、方士は玄宗皇帝と誓い合った言葉を聞かせて欲しいと頼むのでした。

 

-天に在らば願わくは比翼の鳥とならん

 

地に在らば願わくは連理の枝とならん

 

それは、七夕の夜に変わることのない愛を誓い合った言葉でした。

 

もともと天上界の仙女であつた楊貴妃は、仮に人間の世界に生まれ、皇帝に見出されますが、誓いの言葉もむなしく、会者定離のさだめのまま、死後はこの蓬莱の島に住む身の上となります。昔を懐かしみつつ舞う楊貴妃。都に帰っていく方士をいつまでも見送り、また悲しみに沈むのでした。

〜舞台展開〜 

まず囃子方が着座すると、後見が「引廻し」という布で覆われた作物を、舞台正面の奥(大小前)に据えます。これは蓬莱国の太真殿といって楊貴妃の魂の住まいを表しています。

 

〈次第〉の囃子で方士(ワキ)が登場し、勅命によって楊貴妃の魂を訪ねて、蓬莱国に向かう由を述べます。

 

やがて到着した方士は、蓬莱国の者(間狂言)に太真殿に教えられます。

 

作物の中から、昔を懐かしむ楊貴妃(シテ)の声が聞こえ、方士は勅命によって来たことを告げると、地謡の内に、後見が引廻を静かに下ろします。シテは天冠を戴き、唐織を壺織に着て、緋色の大口(袴)姿にと、方士に手渡します。

 

かんざしは他にもあるもの。楊貴妃と皇帝しか知らない秘密の誓いの言葉を教えます。

 

都に帰ろうとする方士を引き止めて、再びかんざしを付けて昔を懐かしみつつ舞う楊貴妃。やがて別れの時が来て、またかんざしを携えて方士は帰って行きます。楊貴妃は見送り、作物の中へ入り、悲しみに沈む様子で静かに座り、シオリ(泣く型)をします。

 

 

〜鑑賞〜 

能では幽霊が仮の姿で、又は在りし日の姿で現世に現れるという曲が多い中で、蓬莱国(常世の国)に魂を訪ねて行くというところが、不思議な雰囲気を醸しだしている曲です。

 

大切な人が亡くなってしまうと、残された人は、誰しも魂が何処かに存在し続けていると願って生きているものです。また永遠に変わることのないものへの憧れ。この曲にはそのような心情がこめられた趣き深い曲です。

(白翔會)

媒体資料